フルハーネス型墜落制止用器具について
(種類と使用上の注意事項等)
日本安全帯研究会
技術委員長
井上 均
はじめに
「クレーン」第63巻 4号では,人体ダミーを用いた落下試験結果等から,フルハーネス型の有効性について説明させて頂きました。
先の「墜落制止用器具の規格」全部改正と共に,“高さが2メートル以上の箇所であって,作業床を設けることが困難なところにおいて,墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて作業を行う業務。”が,労働安全衛生規則の(特別教育を必要とする業務)第36条の対象となりました(2019年 2月1日付け)。
当該特別教育には,学科教育と実技教育があり,特別教育を受けていない労働者をこれらの作業に従事させると法令違反となることから,事業者は特別教育を適切に実施する必要があります。
その学科教育のカリキュラムの一つに「墜落制止用器具に関する知識」が設けられていることから,本稿では「墜落制止用器具に関する知識」の範囲に示されている,“フルハーネス及びランヤードの種類及び構造”,“墜落制止用器具の点検”,及び“関連器具との使用方法等”の要点について説明しています。
1 フルハーネスの種類
フルハーネスの種類は,フルハーネスを構成する肩ベルトと腿ベルトの構成(構造)によって主に三種類が製品化されている。
フルハーネスには,着用者の背部にランヤードを接続するための「D環」が設けられており,その「D環」にランヤードを接続した状態を「フルハーネス型」と言う。
着用者の胸部に「D環」が設けられている仕様もある。この仕様については“6 関連器具の使用方法”で説明している。尚,この項では基本的な構造を説明しているので,同じ種類であってもフルハーネスの肩ベルト,腿ベルト,及びD環等の形状が相違している製品も流通している。
それぞれ構造と特長について説明する。
(1) 腿ベルトV型
腿部のベルトの構成がV型で,肩ベルトは肩甲骨の高さ付近でX状に重なる構造になっている(
図1
)。腿ベルトが股関節に沿って配置されているため,作業姿勢や移動の動きに対する違和感が少い。ISO規格等ではこの構造が標準仕様となっている。
(2) 腿ベルト水平型
腿ベルト部が水平で独立した構成になっているため,
鼠
そ
蹊
けい
部
ぶ
(大腿部の付け根部分)の拘束感が少なく,立ち仕事や頻繁に移動する業種・職種(例えば建設業)で多く使用されている。
腿ベルトの
あそび
(緩み)が大きい状態で装着すると,墜落阻止時に腿ベルトがずり上がり,胸ベルトによる頸椎の圧迫等のリスクがある。
(3) 肩ベルトY型(腿ベルト水平型)
一般的なフルハーネス本体の肩ベルトは,肩甲骨の高さ付近でX状にクロスしている構成となっているが,背部のベルトをY型形状に構成させ腰部に作業ベルトを装着するスペースを設けることで,多くの工具や工具袋が吊り下げられる構造になっている。この肩ベルトY型は,顧客要望(業種・職種)から生まれた製品である。
2 ランヤードの種類
ランヤードには,巻取り式,ストラップ式,及びロープ式の3種類が流通している。「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」の基本的な考え方として,“墜落制止用器具はフルハーネス型を原則とすること。”という指標が示されていることから,フルハーネス型着用時の落下距離の低減を図る目的で,ロック装置付き巻取り式ランヤードが多く使用されている。
全てのランヤードには,墜落制止時に身体に加わる衝撃荷重を軽減するためのショックアブソーバが装備されている。尚,ショックアブソーバには,第1種と第2種がある。第1種ショックアブソーバを備えたランヤードをタイプ1
注―1
,第2種ショックアブソーバを備えたランヤードをタイプ2
注―2
という。
注―1:タイプ1とは,標準手すり高さ(0.85m)以上の位置にフックを取り付ける場合に使用する。
注―2:タイプ2とは,足元(付近)にフックを取り付ける場合に使用する。
2.1 巻取り式ランヤード(ロック機能付き)
ロック機能付きは,墜落時に生じるストラップの繰り出しを瞬時に停止させる機能を搭載し,落下距離を短くできる大きな特徴を有している。この“ロック装置付き”には,ストラップの弛みを無くす機能を付加した“常時巻取り型”も製品化されている。
図5
に“常時巻取り型”の巻取り式ランヤードの一例を示している。
2.2 ロープ式とストラップ式
ロープ式は,三つ打ちロープの片端にフックを取り付け,他方にショックアブソーバを備えた連結フックが接続されたシンプルな構造のランヤードである(
図6
)。
ストラップ式は,細幅織りのストラップの片端にフックを取り付け,他方にショックアブソーバを備えたカラビナが連結された構造のランヤードでロープ式に比べ型崩れが起きにくい。
ストラップ式には,ストラップ部を伸縮式にして,使用時の不要な垂れ下がりを少なくした伸縮機能を有するものもある(
図7
)。
3 二丁掛けランヤードの構造,落下衝撃試験の性能,及び使用時の注意事項について
高所作業において重大災害に繋がる“墜落・転落災害”を減少させることは極めて重要なことである。その対策として,平成6年に開港された関西国際空港建設時には,高所作業時の不安全作業の防止対策として,胴ベルト型安全帯に二本のランヤードを接続した構造の製品が開発され使用されていた。当時,その胴ベルト型安全帯は“常時接続型”と呼ばれ,現在の二丁掛けランヤードの原点となっている。
二丁掛けランヤードの基本は,二本のロープ又はストラップ(フック付き)を一つのショックアブソーバに接続する構造(
図8
)が基本となっているが,同じ長さのランヤードを二本用いて二丁掛けランヤードとする方法もある。
ショックアブソーバの性能は,「墜落制止用器具の規格」で4kN以下と規定されているため,後者の場合には,落下阻止時にそれぞれのショックアブソーバに衝撃荷重(4kN)が作用することにより,身体に加わる荷重は倍増することになる(
図9
)。
このことから,二丁掛けランヤードを使用する際には次の項目について注意すること。
2本の同じ長さのランヤードを組み合わせて使用する場合は,フックの掛け替え以外の二丁掛けは行わないこと(落下阻止時に加わる衝撃荷重が高くなる)。
事業者(管理者)は,労働者に作業時と移動時にはランヤードは一本掛けとし,フックの掛け替え時にのみ二丁掛けにして使用する方法(
図10
)があることを指導すること。
4 墜落制止用器具の点検・保守について
墜落制止用器具の主要な構成部品(ベルト・ロープ等)には合成繊維製を用いているため,経年による摩耗や紫外線の影響を受けて強度低下を起こす。従って,日常点検や定期点検を欠かすことはできない。「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」(平成30年6月22日付け基発0622号第2号)の“点検・保守・保管”の項に,墜落制止用器具の点検・保守及び保管は責任者を定める等により確実に行う,管理台帳等にそれらの結果や管理上必要な事項を記録しておくこと。”と指導されている。下記にその点検・保守のポイントについて記載する。
点検は,日常点検のほか,一定期間ごとに定期点検を行う。定期点検の間隔は半年を超えないこと。点検項目については,製品の取扱説明書に記載されている“点検項目と廃棄基準”に準拠して行うこと。
ランヤードのロープ等は,摩耗の進行が速いため,少なくとも一年以上使用しているものについては,短い間隔で定期的に目視点検を行うこと。
巻取り式ランヤードは,ストラップの巻込み,繰出し状態,ロック機能付きの場合はストラップを素早く繰出しロック機能の確認をすること。
点検の結果,異常が確認された場合は,管理者に報告する等適切な処置を講じること。
5 耐用年数及び交換の目安
耐用年数は,業種・職種によって大きく相違するため,一律に耐用年数を決めることには無理がある。従って,同じ業種・職種で使用した経年品の残存強度を行い,その残存強度の結果から業種・職種にあった耐用年数を決定することが望ましい。なお,経年品の残存強度等を行う場合には,当該製品のメーカーに相談すること。但し,一度でも大きな衝撃を受けた墜落制止用器具は,外観に変化がなくても使用しないこと。また,日本安全帯研究会では,フルハーネスおよびランヤードの交換時期は,使い方によって異なるが,フルハーネスは使用開始から3年,ランヤードは使用開始から2年を交換の目安として推奨している。
6 関連器具の使用方法について
6.1 種類と構造
関連器具は,大きく分けると“スライド”と“リトラクタ”に分類できる(
表1
・
図11
)。
表1 関連器具
種 類
器具名
仕様等
スライド
親綱式スライド
繊維製ロープ/ワイヤロープ
固定ガイド式スライド
レール状のガイド
リトラクタ
安全ブロック
ワイヤロープ式/ストラップ式
6.2 選定のポイント
関連器具は,高所への昇降時における墜落を防止するための器具であり,作業内容(業種・職種)設置条件等から適切な器具を選定すること。
昇降する場所の構造物に恒久的に設置する場合は,固定ガイド式スライドを選定する。
昇降路が直線的であり,その長さが10メートル程度までのものは親綱式スライドを選定する。
仮設的に使用する場合は,リトラクタ式を選択する。リトラクタ式にはワイヤロープ式とストラップ式(繊維製)があるので,使用環境(職種・業種)によって適切なものを選択する。
スライドは,常に作業者より下方で昇降移動の追従する構造であるため,スライドの子綱は極力短いものを選択すること(子綱の長さは原則として50cm以下であること。但しやむを得ない場合は70cm以下の仕様がある)。
スライドの小綱(フック)は,フルハーネス型の胸ベルトのD環に接続すること。
6.3 使用方法のポイント
この項では,仮設的に多く使用されているリトラクタ式の使用ポイントについて説明する。
取付け対象物は,墜落制止時に加わる衝撃荷重に十分に耐える堅固なものであること。
ストラップのフックは,フルハーネスのD環に接続すること(
図12
)。
リトラクタ式器具は,原則として取付け位置の鉛直直下で使用すること。
使用前には,ワイヤ(ストラップ)を素早く引っ張り,ロック機能が確実に作動することを確認すること。
リトラクタ式器具のワイヤ(ストラップ)が
弛
たる
んだ状態では使用しないこと(墜落阻止時の落下距離が長くなるため)。
ワイヤやストラップを巻き戻す時は,手で抵抗を加えゆっくりと巻き戻すこと。
おわりに
“高さが2メートル以上の箇所であって,フルハーネス型を用いて作業を行う業務”が,特別教育の対象となりました。本稿では,その特別教育に定められている「墜落制止用器具の知識」についてポイントを説明させて頂きました。
高所作業を安全に行うための一つとして,墜落制止用器具の特性を十分理解し,正しい選定と装着を行い,それに加え正しく使用して頂くことが重要です。本稿の説明が,安全作業に繋がる一助になれば幸いです。
ご安全に!!