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橋梁工事におけるVR安全教育 システムの開発と実践的活用―臨場感による危険体感と安全意識向上―
spacer.gif オフィスケイワン㈱ 代表取締役
保田敬一 
技術開発部 担当部長 
蛇草伸太郎
要旨
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 橋梁工事は高所作業や重量物の取り扱いを伴い、墜落・転落など重大災害のリスクが高い分野である。本稿では、橋梁メーカーと共同開発した「橋梁工事VR安全教育システム」の概要と活用事例を紹介する。本システムはVR空間で実際の工場・現場を再現し、玉掛け作業や足場作業など過去に発生した災害事例を疑似体験させることで、作業員の危険予知能力や安全意識を高めることを目的としている。臨場感ある体験に加え、ミニチュア映像による振り返り機能やシナリオ分岐による成功体験を通じ、学習効果の向上や作業員間のコミュニケーション活性化といった副次効果も得られている。今後は大規模更新工事で増加するパネル式足場の教材化にも取り組み、安全で持続可能な建設現場の実現に寄与していく。
 


1 はじめに
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 橋梁工事においては、高所作業や重量物の取り扱いといった危険作業が多く、他の土木工事に比べて墜落災害などの事故に至るリスクが高い。建設業界では過去に労働安全衛生法の改正や安全基準の見直し、安全帯掛け忘れ防止装置等のICT技術の活用や安全教育の充実など複数方面から対策が実施されている。その結果、労働災害による死亡災害の発生件数は減少傾向にあるものの2023年時点でなお、200件以上の死亡災害が報告されている(表1)。本稿では橋梁工事特有の労働災害の削減を目的に、橋梁メーカーと共同開発した安全教育VRシステムの概要とその活用事例とその効果について述べる。
 


2 VR技術について
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 VRとはVirtual Reality(仮想現実)の略で、グラフィック処理技術の向上により圧倒的な没入感が得られる特徴がある。コンシューマー向け製品がリリースされた2016年ごろより建設業界で活用が進んだ。当時はコンテンツを再生する高性能パソコン、頭部に装着するディスプレイ付きのヘッドセット、手に持って操作するコントローラー、ヘッドセットとコントローラーの位置情報を取得する赤外線センサーで構成されていた。代表機器にHTC社製の「VIVE(バイブ)」がある。近年は技術革新によってパソコンと赤外線センサーが不要で、コンピュータ部と映像表示が一体となったヘッドセットとコントローラーのみでプレイ可能な機材が主流となっている(図1)。 代表的な機器がメタ社の「Meta Quest」シリーズがある。その他、遠隔地から複数人が同一のバーチャル空間に入って打合せを行う技術も実用化されている。
 


3 開発システムの概要と特長
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 建設業における労働災害で高い比率を占めるのが、玉掛作業、クレーン、高所作業などによる、はさまれ・まき込まれ、墜落・転落、転倒などである。橋梁工事VR安全教育システムは、VR空間に橋梁工事の状況を再現して、高い臨場感と没入感のなかで、体験者が実際に災害を体感することで、実現場での危険予知レベルや安全意識の向上に役立てることを目指したシステムである。図2 に示すように、体験者は直感的なUIで容易にコンテンツを選択できる。建築工事でもVR教育が導入されているが、本システムは橋梁工事特有の高所作業・重量物取扱いに特化している点が特徴となっている。リリース以降、多くの現場で活用され、国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)において、事後評価が不要な「VE技術」として現在も登録されている(NETIS登録番号KK―180029―V E )。
 橋梁工事VR安全教育システムは、2017年に橋梁メーカー 3社(株式会社駒井ハルテック、宮地エンジニアリング株式会社、瀧上工業株式会社)とオフィスケイワン株式会社の4社による共同開発でスタートした(図3)。開発当初はパソコン、ヘッドセットや赤外線センサーおよび手に持って操作するコントローラーで構成する「VIVE」を採用してコンテンツ開発を進めた(図4)。プレイエリアは約4m×3mの平面が必要である。2023年にはパソコン不要のスタンドアロン型デバイス「Meta Quest2」に適用させた。これにより赤外線センサーが不要となり、開発当初のシステム構成に比べて可搬性が向上し、プレイ前の準備時間の短縮も可能となった(写真1)。また、従来映像転送用にパソコンとヘッドセットを接続していた有線ケーブルがなくなることで、ケーブルと体験者が絡まらないようにサポートする人員配置が不要となった。
 


4 工場編と現場編での被災コンテンツ
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 安全教育のコンテンツ内容は大きく分けて鋼桁を製作する「工場編」と、鋼桁架設の「現場編」の2種類に分かれる。実装した労働災害シーンは、①玉掛け作業時に吊り荷の地切り後に部材が偏心して挟まれる(図5)、②玉掛け作業時に吊り荷がほどけて足元に落下する、③クレーン合図時に気をとられ足元の養生パネルを踏んで落下、④高所作業時にホースを治す際に足をすべらせて箱桁から落下、⑤箱桁内の狭所作業時に足を滑らせて落下、⑥足場上で下を覗き込んでいたら足を滑らせて地面に墜落、⑦木製足場板の番線が破断して安全ネットを突き破り地面に墜落(図6)、 ⑧ 安全帯をつけて桁上を歩行中に隙間から落ちて宙吊り状態に(図7)、⑨梯子を昇っているときに足を滑らせ背中から足場上に転倒、⑩雨天時に枠組み足場の階段を下りる時に足を滑らせて転倒(図8)、などがある。これらのコンテンツは過去実際に起こった労働災害をもとに開発した。これにより再発防止や危険予知に対する能力向上が期待される。また玉掛け作業時の基本動作の学習を目的に図9の「333運動」コンテンツを映像化した。これはクレーンの玉掛け時に、地切りを30cm地点で、3秒静止し、3m離れる行動のことである。
 


5 活用シーンと効果
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 本システムは、写真2に示すように橋梁の工場製作や高所作業を伴う架設現場における安全教育に導入が進んでいる。VRデバイスを装着した体験者は、目の前に表示されたコンテンツ一覧から体験したいコンテンツパネルを手に持ったコントローラーで触れるとスタートする。その後は、音声ガイダンスと映像上に表示される文字で体験者に次の動作を促す仕組みとした。この操作ガイダンスにより、体験者に事前の操作説明を不要としている。
 体験者は選択したコンテンツの最後に、重量部材による挟まれや足場からの墜落などの被災をVR空間で体験する。一瞬の出来事でありなぜ被災したのかを理解できるように、振り返り機能を設けている。振り返り機能は、現場を1/10程度のミニチュアにして被災前後の行動をリプレイすることで、俯瞰的に安全行動の重要性を復習できる構成とし、学習効果を高める機能である。
 現場の職人はVR体験であってもその臨場感から大きなリアクションを示すことが見受けられる。これはVRの世界に没入し恐怖体験を得ている証拠であろう。また参加している他の作業員と恐怖体験を共有し、現場で想定されるさまざまなヒヤリ・ハット経験談をお互いに話すなど教育効果に加え、副次的にコミュニケーション活性化効果も得られた。同じ現場を共にする作業員間のコミュニケーションは、各現場におけるゼロ災害意識の向上や安全職場の醸成に貢献する。ある現場で体験後にアンケート調査を実施したところ、体験者の9割が実際の現場作業で注意を高めるようになった、と回答した。
 


6 おわりに
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 労働安全衛生法第28条の2に基づき、建設現場では毎月1回以上の安全衛生協議会が求められており、災害防止に向けた意識啓発が図られている。しかし現場における教育手法は、座学やDVD視聴といった受動的な形式が中心であり、参加者の慣れによる形骸化が課題とされてきた。
 本稿で紹介したVR技術を活用した安全教育は、危険な作業を仮想空間で疑似体験させることにより、作業員の安全意識を能動的に高める効果を有する。さらに、体験後の振り返りや作業員同士の議論を促すことで、現場責任者や職長、作業員間のコミュニケーションを活性化し、現場におけるゼロ災害意識の醸成にも寄与できるシステムである。
 また近年は現場からの要望を反映し、シナリオ分岐による成功体験を取り入れるなど、教育効果を高める改善を重ねている。加えて、橋梁の大規模更新工事で増加しているパネル式足場の設置・解体作業に関わる重大事故にも対応できるよう、教材化を視野に入れた新たなコンテンツ開発にも取り組んでいる。
 今後も引き続きVR技術を用いた教育コンテンツの拡充を進め、橋梁工事をはじめとする建設現場における安全性向上と、持続可能な労働環境の実現に寄与していく所存である。
 


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