クレーン用ロープの最新動向について
鋼索鋼線事業部 市場技術部 技術サービスグループリーダー
安積耕司
1 はじめに
工場、物流現場の荷役作業やビル、マンション、橋梁などのインフラ建設現場においてクレーンが欠かせない存在となっている。近年、建築物の高層化や洋上風力発電建設に代表されるクレーンの大型化に伴い、ロープへの要求水準は高まっている。
本稿では、最新の技術トレンド、保守管理の観点からクレーン用ロープの最新動向を報告する。
2 ロープの基本構成と特徴
ロープは複数の鋼線をより合わせて製作する。ロープの構成は、ストランドの数と形、ストランド中の素線の数と配置、繊維心入りか、ロープ心入りかなどによって多くの種類があるが、ここでは一般的なロープの構成について説明する。
ロープは、図1に示すように数本~数10本の素線を単層又は多層により合わせたストランドを、通常は6本を心綱の周りに所定のピッチでより合わせて作られている。
ロープは一般の鉄鋼二次製品に比べて、①引張強度が高い②耐衝撃性に優れている③長尺物が得られる(運搬、輸送が容易)④柔軟性に富む(取扱いが容易)など特徴があり、クレーンには欠かせない存在である。
3 クレーンへのロープ適用例
クレーンへのロープ適用例を図2に示す。
- タワークレーンは高揚程となり、ワイヤロープが持つ自転トルクにより吊り荷が回転するだけでなく、ロープが絡みつき、作業に支障をきたす。この自転トルクを相殺し、ロープの絡みつきを抑制するため、6ストランドロープのSよりとZよりを組み合わせて使用している。また、SよりとZよりロープの条長差を小さくする観点でプレテンション加工を施す事例もある。
- 移動式クレーンの巻上索はタワークレーン同様、耐絡みつき性が求められるだけでなく、高破断力が両立できるナフレックスロープが採用される。起伏索はブライドルシーブの繰り返し曲げによる疲労と多層巻ウインチ上のドラム段替わりやクロスオーバー部の損傷を考慮し、異形線ロープが採用される。
- コンテナクレーンはコンテナ船の大型化による取扱い個数の増加と荷役速度の向上からロープの巻上速度が速く、曲げ疲労性が求められる。一般的な6ストランドロープが主流であるが、樹脂を用いた樹脂充填型ロープが使用される事例がある。
4 クレーン用ロープの最新動向
従来、国内市場ではコストと寿命のバランスからJISで規定されている6ストランドロープが主流となっている。近年ではクレーンの小型化や吊り能力の向上のためのロープの高強度化、また、ダウンタイム縮小や交換費用低減のため、ロープの長寿命化のニーズもあり、ロープ開発が進められている。
4.1 高強度ロープ
ロープの高強度化はロープを構成する素線の高強度化と断面積の増加が求められる。ロープは素線の集合体であるため、素線引張強さがロープ破断力に直結している。素線引張強さはISO規格が2160N/mm2まで規格化されているのに対し、JISでは最も高強度のT種が1910N/mm2にとどまっているが、原料となる線材の開発や伸線技術の進歩により、ISO規格と同等以上の強度を有する素線が実用化されている。
断面積増加の手法は異形線ロープの適用が一般的であり、更に充填率を高めた8ストランドロープ、CFRCロープ、スウェージロープなどがある。これらのロープ断面を写真1に示す。
それぞれのロープの特徴は下記の通りである。
- 異形線ロープはストランドの表面が平滑になるような成形加工を施した後、より合わされたロープである。異形線ロープのJISG3546では6ストランドロープ9種類が規定されている。
- 8ストランドロープはロープ表面に配置されるストランドを8つより合わせたロープである。6ストランドロープに比べてシーブとの接触面積が広く、面圧低減が図れるため、疲労性向上が期待でき、コンテナクレーン用巻上索として使用され始めている。
- CFRCロープはロープを構成する全てのストランドを同一工程でより合わせしている。国内では吊橋のハンガーケーブルで使用されており、海外ではクレーン用ロープとしても使用されている。
- スウェージロープはより合わせを行ったロープに対して圧縮成形している。最も充填率が高く、断面が真円に近い仕上がりである。スウェージ加工をした3ストランドロープは移動式クレーンの巻上索、4ストランドロープはビル外装工事をはじめとしたエンドレスウインチ用として主に使用されている。
4.2 特殊ピッチロープ
写真2に示すようにロープを構成するストランドとロープのより長さ(ピッチ)を変更したロープを特殊ピッチロープと呼んでいる。特殊ピッチロープは曲げ疲労性に優れ、多層巻ドラム上の潰れに強いため、移動式クレーン巻上索や起伏索、造船所向けジブクレーンに純正採用される。
4.3 樹脂複合ロープ
樹脂複合ロープは樹脂被覆IWRCロープと樹脂充填型ロープがある。弊社では樹脂被覆IWRCロープを「スーパーコートロープ」、樹脂充填型ロープを「スーパーストライプロープ」とネーミングし、製造販売している。それぞれのロープ断面を図3に示す。
- スーパーコートロープは、従来のロープ心の代わりに、樹脂被覆したロープ心を入れたものである。これにより、側ストランドとロープ心との直接の接触をなくしている。これにより、内部損傷が防止され山切れが先行するため外観目視点検が容易なワイヤロープとなっている。また、図4に示すように、一般ロープに比べ、ロープの寿命が長く、交換頻度の低減が期待できる。
このスーパーコートロープは鉄鋼向けを中心に天井クレーン等に適用されている。
- スーパーストライプロープは樹脂被覆したIWRCと、ストランド間に樹脂のスペーサを配置している。これによりストランド間及びストランドとIWRC間の金属接触がなく、内部断線が大幅に減少し、管理しやすくなる。また、ロープ断面はほぼ真円となりシーブとの面圧分散効果によりJIS品に比べ交換寿命が2倍に向上する(図5参照)。稼働頻度が高いコンテナクレーン(ガントリークレーン)だけでなく、ヤード内作業に使用するRTGでも適用される。
5 保守管理
ロープの点検、廃棄基準については、強制力を持った国内法規として「労働安全衛生規則」、「クレーン等安全規則」、「クレーン構造規格」などがある。また、ISO4309やJISB8836及び国内法規を補完することを目的にした日本クレーン協会規格JCAS0501などがあり、保守管理に活用されている。
従来から、ロープの保守管理は外観目視点検による断線数測定、形崩れ、錆の有無及びロープ径の測定結果から、上記の廃棄基準もしくは各種点検規格を参照し、継続使用の可否を判断している。例えば日本クレーン協会が制定したJCAS0501はドラムの繰り出し部、シーブ通過箇所、端末金具を中心に損傷状態を確認することになっているが、漏れなく点検するのは困難である。グリースが付着した状態では断線を見逃す可能性も排除できない。これを補完するツールがワイヤロープテスタであり、ISO4309、JISB8836でも磁気探傷法(MRT)の活用が推奨される。
5.1 ワイヤロープテスタ仕様
ワイヤロープテスタは磁気探傷法の一つである漏洩磁束法を用いて、使用中のワイヤロープの断線を検出する装置である。機器は磁化検出器(写真3)、制御器(写真4)及び記録計(オプション)で構成されている。主な仕様を表1、2に示す。
検出原理は図6に示すように断線したロープが磁化検出器を通過すると、磁化器で磁化されたロープの断線部から漏れ出した磁束を検出器で電圧に変換し、測定検出する。
5.2 ワイヤロープテスタ測定事例
クレーン実機におけるワイヤロープテスタ点検は一般的にドラム手前に磁化検出器を取り付け、ロープを一定速度で巻き取り/送り出しながら、測定する。断線によるピーク(図7)が検出された場合、マーキングなどを施し、目視で断線本数を測定する。現在、索道、エレベーターをはじめ重要クレーンの定期点検に活用されている。
また、取扱い性向上、運用の多様化対応のため、ロープテスタのIoT対応を進めている。開発中のワイヤロープテスタ制御器(図8)は無線LANを介したPCからの遠隔監視、記録計の一体化、位置情報記録のエンコーダー接続を可能とした仕様であり、機能検証のため、フィールドテストを行っている。
6 おわりに
クレーン用ロープは多様なニーズに応え、様々なロープが開発、使用されている。近年、繊維ロープの開発が進み、海外ではクレーン実機に適用され始めている。繊維ロープは柔軟性、耐絡みつき性に優れ、鋼製ロープと同等以上の破断力を有していることから、適用拡大が見込まれる。
ロープは使用とともに、劣化が進行するものであり、適切な保守管理が求められるが、実機では劣化の見逃しによる破断事故は後を絶たないのが実情である。ロープ点検において断線範囲の特定と断線数測定が最も重要なポイントであり、断線位置特定ができるワイヤロープテスタ活用が事故抑止の一助となることを願っている。
