大林組の熱中症対策について

大林組 安全本部

 当社では「熱中症は労働災害である」との認識のもと、2024年度から、熱中症の防止への取り組みを強化しています。

1 熱中症対策WGの立ち上げ

⑴熱中症対策要項を策定

 2023年10月に、本社の安全本部、建築本部、土木本部からメンバーを選定し、熱中症対策WGを立ち上げました。経営トップからWGに課せられたテーマは「熱中症の撲滅」であり、WGでは、先ずはそれまでの熱中症の現状の把握から取り掛かりました。そして、熱中症撲滅に向けての方策の検討を重ね、結成半年後の2024年2月に「熱中症対策要項(2024年度版)」を策定しました。

 熱中症対策要項は当社における熱中症対策の指針です。実施事項については毎年見直しを行いますので、今年の夏は「2026年度熱中症対策要項」をベースとし熱中症の防止に取り組みます。

⑵全ての工事現場で自らの現場の熱中症対策の計画を作成

 WGでは結成後すぐに、それまで(2023年迄)の当社における熱中症への取り組みについて分析を行いました。これにより、①熱中症は個人の体調の問題だという意識が強く、熱中症も一つの労働災害という認識が不足していること、②全般的に対策が受け身になりがちであること、との全体像が見えてきました。

 これらの弱点を解決するために、①全国の全ての工事現場において、自からの手と知恵で自現場にて実施する熱中症防止対策の計画を作成し、本支店の現場支援部門(工事部・安全部)に3月迄に提出する。②その後、本支店の現場支援部門のチェックを受けて計画を完成させ、各現場は4月までに熱中症対策の準備を終わらせる、としました。

⑶ハードウェアとソフトウェア、必須対策と推奨対策

 熱中症対策は、熱中症リストバンドや空調服、その他の熱中症対策用品の着用・使用・整備といったハードウェア項目と、計画の作成や熱中症予防管理者の育成と配置といったソフトウェア項目の2つの柱で構成し、それぞれに必須事項と推奨事項があります。

2 2024年夏の振り返りと対策の紹介

⑴熱中症リストバンドの積極活用

 熱中症防止対策のギアをあげ、初めて臨んだ2024年の夏は、暑い夏となりました。対策の目玉としたのは熱中症リストバンドの活用で、当社で6.6万個を購入し、作業される方々と元請社員に支給しました。

 熱中症の発症を未然に防ぐやり方は、それまでは本人の自覚症状、気づきに頼る部分が大きかったと言えます。第三者の目ではありませんが、リストバンドの全員着用は、本人が体調の異変に気が付くこととは別に、電子機器が熱中症発症リスクが高くなってきていることを検知して警告してくれます。本人からの体調不良の申告とは別に、アラーム音が鳴れば、水分・塩分の補給、休憩、冷却等で対処することにし、2024年度は2回アラームが鳴ったら医療機関に行くことを基本としました。

 また、直射日光を浴びる懸念がある作業員は防暑垂れを使用するとしたことも効果があったとの報告がありました。

⑵熱中症の発生要因を深掘り

 熱中症が発生した際には、通常の労働災害発生時と同様に、発生現場と発生現場を管轄する本支店、そして本社部門において、「励行している対策を行っていたか」を振り返り、「なぜ発生を防げなかったのか」の要因を分析し、再発防止につなげることが大切です。

 そこで、本社から各店にメールで「作業内容」「作業環境」「発生時の作業場所の暑さ指数(WBGT)」「水分・塩分補給の頻度と量」「休憩時間」「作業員の当日の体調、作業員への点検状況」「リストバンド使用の有無」「発生を受けての改善実施」について問いかけし、これらのデータから熱中症撲滅の為に必要な事項を集約していきました。

⑶熱中症リストバンドの鳴動、非鳴動と発症状況等の分析

 リストバンドの鳴動と作業員の健康状態との関連には個人差、ばらつきがみられたことから、メーカーにご協力いただき、発症者が着装していたリストバンドの記録から、深部体温と発症者の作業時間・作業強度の関連を解析しました(写真1)。

写真1 熱中症リストバンドの着装

⑷全店的な情報交換会の実施

 熱中症対策WG(本社)と各店の工事部門、安全部門は、毎月、情報交換会を開催し、熱中症の発生状況及び特徴、熱中症対策の課題・問題点、優良事例等について互いに話し合い、情報の全店共有を図って取り組みの改善を重ねました。

⑸発生件数の低減

 2024年の夏は全国的に気温が高く、気象庁の報告によると、2024年時点においては、1946年の統計開始以降、夏として西日本と沖縄・奄美では1位、東日本では1位タイの高温となりました。

 そんな中、当社では熱中症発生の総件数(※)を前年より15%減らすことができました。最大のテーマは熱中症の撲滅ですから、まだまだ道半ばではありますが、対策のギアを上げて、全社を挙げて取り組んだ効果はあったと感じます。

(※)元請の政府労災保険の対象となる建設業の労働者以外に、中小事業主、一人親方、警備員等の不休災害を含む総件数

⑹各店トップの本気と各地域での熱心な取り組み

 各店ではトップ(本店長、支店長)が先頭にたって、熱中症の撲滅に取り組みました。

 例えば大阪本店では『熱中症の救命フロー』を作成し、報告体制と症状別の対応フローを一枚紙にまとめたものを作りました。この翌年の2025年6月に施行された熱中症対策強化に関する改正労働安全衛生規則の「事業者は熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、従事する作業員に周知する」を先取りした形です。

 当社では、この大阪版フロー図を一部改訂して全店版とし、2025年は全国の工事現場で使用し、改正安衛則の施行に対応しました。

 また、2023年の地域別の熱中症の発生状況を分析すると、この年は特に北日本(北海道、東北)、東日本で、夏場(6月から8月)の気温が平年より大きく上昇した影響もあってか、北海道、東北、北陸エリアで熱中症が著しく増加しました。熱中症を撲滅していくには、これまで比較的、暑さに慣れていない地域での対策強化が次年度以降の課題となりました。2024年、東北支店では、トップのリーダーシップのもと、AVA冷却を積極的に導入するなど支店を挙げて熱中症防止対策の強化に取り組み、熱中症の発生件数を前年比で9割減少させることができました。

 また、九州支店では、協力会社への密接且つ積極的な働きかけなども功を奏し、支店別では熱中症発生率が最も低く、発生件数は前年比で1/4となりました。

3 2025年夏の振り返りと対策の紹介

⑴当年度の熱中症対策要項を策定

 2024年度の振り返りを行った後、2月に2025年度熱中症対策要項を策定しました。前年の経験を活かしてブラッシュアップを図り、前年より更にギアを上げた対策要項としました。

 それぞれの工事現場で作成する熱中症防止計画は、前年同様に3月中に作成して本支店のチェックを受けて策定を完了させ、4月までに準備を終えて熱中症の防止に臨みました。

⑵約15万台の『リストバンド』を使用

 2025年は熱中症リストバンドとファン付き作業服(空調服)は原則として「全員着用する」を基本としました。

 2025年の熱中症リストバンドの国内工事現場での使用台数は、前年の6.6万台から大幅に増加して14.9万台となりました。

 また、購入や管理のあり方を変更しました。導入初年度の2024年は、当社にて一括購入して協力会社に支給しましたが、このやり方では元請側で機器の管理が煩雑になりました。そこで、2025年は、熱中症対策の主人公となる協力会社側の防止意識の高まりも期し、協力会社が各社で熱中症リストバンドを購入し、機器の管理と作業員全員への配付、着装を実施するやり方に変更しました。これらの熱中症対策にかかる費用については安全経費として元下間の請負金に含み、当社から支払いますので、協力会社に金銭面での負担はありません。

⑶熱中症の知識をもった『熱中症予防管理者』が熱中症から仲間を守る

 2024年は、軽度の熱中症が発症した際の対応では、例えば足がつったとの申告に対し、塩分補給が必要なところを水分補給のみを行った事例もあり、まだまだ熱中症に関する知識が足りないと感じることもありました。

 そこで、取り組み強化2年目となる2025年は、各事業者(全ての協力会社)が、熱中症予防のリーダーとなる方(熱中症予防管理者)を選任して、熱中症予防管理者は、熱中症防止に必要不可欠な知識を習得し、その正しい知識で共に働く仲間を熱中症から守っていくことにしました。

 なお、当社における熱中症予防管理者は、厚生労働省の『働く人の今すぐ使える熱中症ガイド(全編)』(写真2)に書かれている内容を十分に理解・習熟し実行できることを要件としました。その理解をさらに深めるため、3時間半のカリキュラムの講習会についても、全国各地で当社の職員が講師になって当社社員に、そして協力会社の方々向けに積極的に行いました。

写真2 厚生労働省の「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」

⑷休憩時間の確保と過ごし方の見直し

 暑熱下での長時間連続作業は熱中症の発生リスクを高めます。そこで作業場のWBGT25度以上又は気温31℃以上である場合の連続作業は最大50分、休憩時間は10分以上確保とすることにしました。また、休憩所の冷房では、利用者が適切と感じる温度と湿度に調整可能な設備とし、休憩時間の過ごし方では、プレクーリングタイムの意識を持ち、AVA冷却などの身体内部あるいは血液を冷やすことを推奨しました(写真3)。

写真3 工事現場内に設営した休憩室

⑸全店的な情報交換会の開催を継続

 前年に引き続き、熱中症対策WG(本社)と各店の工事部門、安全部門との情報交換会を毎月実施し、2025年は計7回開催しました。双方向の意見交換を心掛け、改正安衛則への動向や対応といった課題や好事例、新しい技術の紹介といった貴重な意見を得ることができました。社員用の空調服についてはファンの出力をアップして欲しいとの意見を受け、ボルト数を上げたファンの提供を開始しました。

⑹前年より踏み込んだ分析を実施

 熱中症の発生要因の深掘りでは、前年に発生状況の詳細データのとり方に苦労したことから、社内で使用している災害速報様式の別紙に、熱中症が発生した場合の健康状態、作業状況等の情報を記入する欄を設けました。「熱中症の発生要因を把握、分析するうえで最低限把握する必要がある事項は何であるか」の周知と詳細かつ速やかな情報収集に繋がりました。

 この情報収集の改善もあって、熱中症の発生事象の分析や統計を多角的に行うとともに、リストバンドに関する解析では、鳴動の内訳と熱中症発生との関連、発症時の体温との関係、重症度との相関についてデータ化しました。この解析結果は2026年度の救命救急措置フローの改訂にも活かされています(表1)。

表1 現場での熱中症に対する救急救命措置フロー

 また、前述の分析と統計により3つの警戒ポイント(梅雨明け時、海の日3連休明け時、夏期休暇明け時)では、未だに通常時より熱中症が多数発生していることも明らかになり、暑熱順化の重要性を改めて認識しました。

 全国安全週間の準備期間の6月には、当社の熱中症予防管理者へのアンケートを実施(回答者数573人)し、対策の取り組み度、熱中症全般への理解度を調査しました。

⑺優良事例を社内イントラネットに掲載

 熱中症対策を強化したことで、各現場が熱中症の防止に真摯に取り組んでいる姿、事例が、より見えてきました。そこで優良事例をピックアップした“ベストプラクティス集”を社内HPに掲載し、誰もが閲覧できるようにしました。ベストプラクティス集は写真を多用した分かりやすい構成とし、社員に関心を持って見てもらうことで熱中症対策の底上げを図りました。

⑻熱中症の発生件数

 記憶に新しいところですが、昨年、2025年の夏は、災害級の暑さとなりました。異例の早さの梅雨明けと記録的な高温により、長期間にわたり熱中症を警戒する毎日でした。

 気象庁の報告によると、夏の平均気温平年差は、北日本で+3.4℃、東日本で+2.3℃、西日本で+1.7℃となり、1946年の統計開始以降、夏として1位の高温でした。また、日照時間も東日本日本海側で平年比140%、東日本太平洋側で平年比137%となるなど、外での作業を伴う建設業にとっては、厳しい日差しへの対処においても苦労の絶えない夏でした。

 そんな中、当社の熱中症発生の総件数は前年から2%増となりました。月別では、早い梅雨明けの影響もあって6月の発生件数が前年より倍増し、7月は2割増、8月は4割の減でした。この当社の熱中症発生の時系列データを気象庁の報道発表に掲載された「地域別平均気温平年差の経過(5日移動平均)」と見比べると、著しく気温が上昇した6月中旬から7月に掛けて熱中症の発生が増えましたが、一方で、平年よりは気温が高かったものの著しい平年差ではなかった8月には、発生件数を前年より大幅に減らすことができました。

 対策のギアを更に一段上げて臨んだ2025年の夏は、あの長く記録的高温の下にあって発生数に2024年からの大幅な増加はなく、ほぼ横ばいで留まったと思うところもありますが、まだまだ、反省すべき点、改善できる点はあると感じます。

4 2026年の熱中症対策

⑴必須事項と推奨事項

 2026年度の熱中症対策要項では、各現場が行う必須対策としてハードウェアで8項目、ソフトウェアで4項目を示しています。前者の具体例としては、「熱中症リストバンドと空調服を全員着用する」「休憩所の適切な冷房」「AVA冷却」があり、後者の具体例には「全ての事業者(元請と協力会社)は現場毎に熱中症の知識を熟知し発症時には適切な対応のできる熱中症予防管理者を指名する」とともに「熱中症予防管理者の指導の下で熱中症教育と対策の実務を担う熱中症予防推進者を配置する」「熱中症対策カレンダーの作成」「バディー制の導入」があります。このうち熱中症予防推進者を配置、AVA冷却(写真4)、熱中症対策カレンダーの作成、バディー制の導入は、今年から新たに必須事項として取り組む対策となります。

写真4 AVA冷却

 また、推奨対策はハードウェアで4項目、ソフトウェアで1項目を示し、条件のあう現場であれば積極的な利用を推進することにしています。具体的には簡易テントに強力スポットクーラーを設置した休憩室(写真5)、アイススラリーの導入等があります。

写真5 簡易テントに強力スポットクーラーを設置した休憩室

⑵注力すべき3つの対策

 過去2年の反省と教訓から、強化すべき対策を3つ示しています。

 1つめは、新たな救命救急措置フローに従った適切な対処です。前年のフローをより明確にし、当社社員、職長、作業員が、迷うことなく、まぎれの無い対応ができるよう、応急措置と緊急搬送を明確にしました。

 2つめは、熱中症予防管理者の質の向上です。2025年から各事業者は熱中症予防管理者を選任して現場に配置するとしましたが、6月にアンケート調査を行ったことで、熱中症全般に関する知識と対処法の理解度がまだまだ十分ではないことが判りました。そこで、今年は、各事業者から選任された熱中症予防管理者に対し、作業員の命を守るための適切な措置を講じることができる基礎知識を持っていることを改めて求め、特に、健康管理、暑熱順化、休憩頻度、水分塩分摂取、応急措置、緊急搬送に関する事柄を確実に理解していなければならないと定めました。

 3つめは、毎日行う体調管理のチェック項目(表2)を具体的に10項目示したことです。2025年の熱中症発生を要因分析したところ、個々の健康管理が、熱中症発生の一つの要因になっているケースが実に8割弱ありました。そこで、暑熱期間は作業前のATKY・QA活動時に実施し、日々体調管理のチェックをすることとしました。10項目の内訳は、体の状態への問いかけが5つ、生活習慣への問いかけが4つ、装備品の確認が1つとなります。

表2

⑷対策の改善を重ねる

 熱中症の撲滅を合言葉にした全店的な取り組みは、今年は3年目となります。全店の工事部門、安全部門が参加する情報交換会は、今年も継続して毎月実施し、OODAループとPDCAループを回しています。

 先ずはハード面を充実させる。休憩や塩分・水分の補給の在り方をルール化する。そして、地道に教育活動を継続し、各社から指名を受けた熱中症予防管理者の指導の下、建設現場で作業される一人ひとりが自らの意志・欲求で熱中症に関心を持って学び、熱中症発症のメカニズム、熱中症にならないための知識を深く知ることになれば、熱中症の発生自体と熱中症が発生した場合の適切な対処により重篤化の防止につながります。

 今年の熱中症対策のキーワードは、熱中症防止の基本たる「各自の健康管理」「異常時の速やかな連絡」「作業環境の向上」「予防知識の普及」の4つとしました。これらを徹底して熱中症の発生を抑えたいと思います。

⑸熱中症の撲滅にむけて

 昨今の異常ともいえる気象条件において、熱中症の撲滅というのは、とても大きなテーマですが、昨年は後記の『涼人』プロジェクトを試行したように、今やるべきと思ったことはできるだけ導入・やってみることで改善を積み重ね、対策を進化させ、熱中症の起こらない建設現場を目指します。

5 新たな熱中症対策『涼人』プロジェクトを試行

 2025年は、新たな試みとして施工済みダクトに大型仮設空調機を接続させた仮設空調システム『涼人』プロジェクトを構築し、7月に東京都中央区日本橋のオフィスビル新築工事現場にて取り入れました。昨今の気候変動による猛暑日の増加を受け、高温多湿な作業環境では追加対策が必要と判断し、建物全体を空調により冷却するやり方です。技能労働者の作業環境改善を目的に、完成建物の空調稼働前に全館空調を行う取り組みは建設業界初の試みとなります。

 今後は大林組の設計・施工プロジェクト提案において、発注者と協議の上、基本設計段階で夏場の工事に『涼人』プロジェクトの導入を盛り込み、対象現場を拡大したいと考えています。

建設現場「涼人」プロジェクトの概要・特長
[戻る]
[ホーム]