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ゴンドラ落下防止装置の種類と取り扱い
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1.はじめに
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 2006年に施行された「機械の包括的な安全基準に関する指針(2001年6月基発)」により,ゴンドラに関しても設計段階で予想されるリスクの調査・検証・対策が求められるようになりました。
 弊社では,ゴンドラの様々な部位についてリスク調査を実施しております。
 そのなかでも最もリスク性が高い「作業床落下」について行った検証結果と対応策について本誌で紹介させて頂きます。
 国内の常設型ゴンドラにおいては,「作業床落下」事故は極めて少ない事象ですが,万が一発生した場合は,第三者被災の可能性を含めて大変大きな労働災害となる恐れがあります。

 


2.作業床落下の要因について
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 作業床が落下する危険要因は幾つかあります。その要因は明確な構造設計,徹底した品質管理,定期的な保守点検を行うことで排除されます。
 しかしながら,機械の事故においては,「ヒューマンエラー」を含む「想定外の要因」が数多く発生していることが実情とも思われます。
以下に予見可能な危険要因について述べます。

2.1ワイヤロープ切断
 ワイヤロープが切断した場合の防止策は,ライフライン(人の落下防止用ロープ)を垂らす以外は,ゴンドラの昇降装置で対策することは不可能です。その為にゴンドラ構造規格では,ワイヤロープ強度は10倍以上の安全率を設ける基準となっています。
 ゴンドラが世に多く出始めた昭和40年代ころには,ワイヤロープ切断による事故が数例有ったことを先輩諸氏から聞いたことがあります。
 昭和44年のゴンドラ構造規格の公示に始まり諸法令化されたことにより,各メーカーでも様々な安全対策の実施,事業主による定期点検の実施,使用者による始業点検の徹底等で,常設型ゴンドラでは起こりえない要因となっています。

2.2減速機出力軸の破断
 減速機出力軸が破断した場合は,ワイヤードラムが空転状態となり,作業床は落下します。この軸が破断する原因としては以下が想定されます。

  • 芯出し不良による軸の疲労破壊
  • 取付ボルトの締め不足により,芯ずれが発生し軸が疲労破壊する
  • 軸強度不足による軸の破断

 これらの危険要因の全ては設計,製造,品質管理の徹底で回避出来ます。
 弊社では検査会社の協力を得て,実際の減速機出力軸に「ひずみゲージ」を組み込んだ減速機を使用して,作業床を吊った運転中に軸に作用する「曲げ応力」と「ねじれ応力」の実測値を測定する実験を行いました。
 この実験により計算式で得られる値と実際に発生する値の整合性の確認を行い,その結果を元に以下の事項を確立しました。

  • 軸の疲労限界(寿命)
  • 芯出し許容値
  • 軸の安全率
写真 1 軸に組込んだひずみゲージ 写真 2 実験にて疲労破断させた軸

 
2.3減速機入力軸の破断
 減速機入力軸が破断した場合は,ワイヤードラムが空転状態となり,作業床は落下します。この軸が破断する原因としては以下が想定されます。

  • 芯出し不良による軸の疲労破壊
  • 電源の逆相運転により,負荷が拘束された状態で回転しようとすることにより発生する軸のねじれせん断

 これらの危険要因全ては製造,品質管理,定期点検の徹底で回避出来ます。

2.4減速機油の異常
減速機油に異常が発生した場合は,減速機内部の破壊を招き,ワイヤードラムが空転状態となり,作業床は落下する場合があります。異常となる原因として以下が想定されます。

  • 異物が混入し,ギア面が磨耗し破損に至る
  • 定期交換しないまま使用し,油の劣化によりギア面が磨耗し破損に至る
  • 外気温度に適さない粘性の油により,潤滑油の効果が著しく落ち,ギア面が磨耗し破損に至る

 これらの危険要因の全ては,定期点検の徹底で回避出来ます。
 弊社では,「もし油交換を忘れていたら」のリスクに対して,減速機許容トルクの約80%相当の荷重を吊った実験装置を用いて連続運転し,一定時間毎に減速機内部の変化を目視調査行いました。
 一般的なウオーム減速機では油交換は初回が100時間以内,2回目以降は500時間毎となっています。

500hrs: ウオームホイール(BC材)の切粉が多数油に混入。油粘度は若干低下しており,油色は黄色からうす茶色く変色。ギア歯面に異常は無い。
1000hrs: 油粘度は逆に高くなり若干硬い状態となる。油色は濃い茶色となり,切粉の判断が出来ないほど濃い色となる。歯面は全体的に浅い傷が発生していた。
1500hrs: 油はグリス状に硬化し,ほぼ黒色となる。歯面はモジュールに対して10%以上の磨耗が発生し,部分的に欠損も生じていた。
1900hrs: 運転中に異音が度々発生し,減速機ケース表面温度が80℃を超える。焦げつく異臭も発生する。歯面は30%近くまで磨耗する。
2175hrs: 吊っていた物が約30センチ程落下し減速機は回転不能となる。ギア歯が6枚せん断し,他の歯面も50%近く磨耗していた。

 減速機の耐用期間は一般的には25000時間(一部機種は15000時間)で設計されています。
 この耐用期間はあくまでも定期的な油交換及び部品交換を行い,定期的なメンテナンスを行った上での期間です。ゴンドラの場合は使用頻度もまちまちな上,設置環境が良くない傾向にあるため,一般的な耐用期間よりは短く設定しています。実験結果を元に以下の事項を確立しました。

  • 昇降累計運転時間計の設置
  • 合成油が使用出来る減速機の採用
    (「合成油」は実験に使用した「鉱物油」より温度変化に対する粘度変化が少ないため)
写真 3 実験装置外観 写真 4 減速機内部
写真 5 昇降累計運転時間計

 
2.5全ブレーキの無効化
 「全ブレーキの無効化」とは,ブレーキ全てが制動力を失った場合を意味します。
 ゴンドラ構造規格第21条に「制動トルクの総和は …1.5倍以上」と明記されており,常設ゴンドラのほぼ全てにおいて,昇降用ブレーキは2台以上設置されており,制動トルクも1.5倍以上確保されています。2台のブレーキが同時に制動力を失うことは,確率的にはかなり低い要因となります。
 ゴンドラに採用されているブレーキの全ては給電が遮断されればバネにより制動力を確保しており,ブレーキが故障した場合は制動力が維持されます。
しかしながら,以下の原因などではブレーキの制動力が失われることが想定されます。

  • ライニング板の異常磨耗
  • ブレーキ機構への油脂の混入

  これらの危険要因の全ては,定期点検の徹底で回避出来ます。また,昇降装置の多くは「ウオーム減速機」を採用しており,減速機のセルフロック効果によって万が一にブレーキが無効化しても,作業床の自由落下は起こりません。
 弊社の実験では,下降速度より若干早めの速度でスルスルと落下することを確認しています。(減速機サイズや吊り下げ荷重によって相違があります。)

2.6ドラム軸キーせん断
 ドラムと軸の接合部分における「キー」がせん断した場合は,ワイヤードラムがフリー状態となり,作業床は落下します。キーが破断する原因としては以下が想定されます。

  • キー強度不足
  • 繰り返しによるキー疲労せん断
  • キーのはめ合い公差不良

 これらの危険要因の全ては設計,製造,品質管理の徹底で回避出来ます。

 


3.作業床落下防止装置について
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 前項に示す要因が発生し,万が一作業床の落下が起こった場合には,最終手段として「ワイヤーを掴む」または「ドラムを直接制止する」の2方策があります。

3.1クランプ装置
 クランプ装置(チルブロック(株)チルコーポレーション製)をワイヤロープ途中に設置し,作業床が自由落下した場合にワイヤーをつかむことで落下防止を行う方法です。
 クランプ装置はデッキ型ゴンドラ等の落下防止装置として幅広く使用されております。
 クランプ装置の作動原理は通過するワイヤロープが内蔵されている「遠心クラッチ」を回転させ,自由落下により「遠心クラッチ」が開き,「動作レバー」が外れて「つかみ装置」がワイヤロープをつかみます。
 構造が簡単で点検性も優れています。但し,クランプ装置に使用できるワイヤー種類が限られていることや装置自体の許容能力に限度があり,取り付けに際しては制約されることがあります。

 

3.2メカニカルブレーキ装置(その1)
 メカニカルブレーキ装置はドラム軸またはピニオンギア軸に取付けます。ドラムが下降方向へ加速した場合に作動し,作業床の落下を防止します。
 メカニカルブレーキの作動原理は「ラチェットホイル」,「ラチェットつめ」,「ブレーキライニング」が内蔵されていて,上昇方向へ回転している時は「ラチェットホイル」が空転状態となります。下降方向へ回転している時に入力軸(駆動装置軸)より早い速度(落下状況)になると,「ラチェットつめ」が「ラチェットホイル」に引っ掛かり,「ラチェットホイル」が回転し,「ブレーキライニング」を締め付けることでブレーキ効果となります。
 装置の種類が限られていること,減速効率が悪くなること,装置自体が大きくなることでゴンドラに搭載するにはかなり制約が生じます。
 下の写真は懸垂型ゴンドラに取付けた実例です。


 
写真 6 メカニカルブレーキ設置例

 本機は大型塗装ブース内に設置されたため,ゴンドラ全体が「防爆仕様」となっており,一般的に採用する「電磁ブレーキ」の取り付けが不可能なために減速機内蔵型のメカニカルブレーキを取付けています。

3.3メカニカルブレーキ装置(その2)
 
このメカニカルブレーキ装置は欧州製のゴンドラでよく採用されており,ドラム軸に取付けます。ドラムが下降方向へ一定速度を超えて回転した場合に作動し,作業床の落下を防止します。
(ELEKTROMATEN社ドイツ製)
 作動原理は前述のメカニカルブレーキと似ていますが,「Central wheel」と「 Ratchet wheel」が軸に配置されており,ドラムの回転に合わせて一緒に回転します。回転速度が一定速度を超えると遠心クラッチが組み込まれた「 Roll」で「 Pawl(歯止め)」が飛び出して「 Ratchet wheel」に.み合い停止します。このときに「 Damping bare」が大きく変形し停止時のクッション効果となります。
 構造的には簡単,小型,制動トルクが大きいのでゴンドラなどの台車が狭い機械には最も適合しています。但し,制動トルクが2000 Nmの1機種しか販売されておらず,国内のゴンドラのように積載量や作業床大きさが広範囲の場合には標準的に搭載するのは難しい状況です。

下の写真は弊社がこのメカニカルブレーキ装置を取り付けてテストした様子です。



写真 7 機材提供は(株)チルコーポレーション様

 
3.4直接ブレーキ装置
 ドラムの外周面をブレーキホイルとして電磁ブレーキや油圧ブレーキのシューでドラムを直接制止させる方法です。最も確実な手法ですが,ゴンドラの場合は積載量や作業床自重などが広範囲でドラムに作用するワイヤー張力は400kgf〜3000kgfと大きくなります。ブレーキは無通電時でも作動する必要がありバネ力でブレーキ力を維持しなければなりません。
よって,必要となるブレーキトルクは相当大きくなり,それに合わせてブレーキ装置自体も大型となります。
 よって,ゴンドラ台車内の狭いスペースに取り付けることは困難であり,標準的に搭載することは不可能と思われます。

3.5ラッチ歯&つめ機構装置
 ラッチ歯&つめ機構は,ドラム側面に取付けた「ラッチ歯」へ「つめ」を強制的に.み合わせて作業床の落下によるドラム回転を制止する方法です。構造的にはシンプルとなります。しかしながら,落下時の衝撃荷重に耐えられるようにそれぞれの部材は強靭または高強度材の採用が必要となります。また,衝撃荷重が大きいことで,ワイヤー切断や無軌道式台車などでは台車自体の転倒を招く恐れがあります。
 ゴンドラのように人が乗る機械には不向きな面が多々あり,搭載には十分な検証が必要です。下図は弊社が納入した「大型スクリーン昇降装置」に採用したラッチ歯&つめ機構装置です。

 

3.6非常ブレーキ装置
 「非常ブレーキ装置」は,弊社が数年前より前項に示した各ブレーキ装置類の検討・実証テスト・評価を行った結果で自主開発した装置です。2009年より各種の実証テストを行い,2010年より一部のゴンドラへ搭載しています。基本構造は「ラッチ歯&つめ機構」と類似していますが,衝撃を緩和する機構,装置の小型化,電気制御方法の工夫などで作業床落下防止に対する確実性を向上させています。

<構造>
 ワイヤードラム側面に取付けた「ラッチ板」と「非常ブレーキ装置」,「非常ブレーキ盤」で構成されています。
<作動原理>  
@ ゴンドラ制御回路が通電されている場合は下図のように「ソレノイド」も通電され,「パイロットピン」が収納されています。
A ゴンドラ制御回路が遮断された時は下図のように「ソレノイド」がOFFとなり,「パイロットピン」がバネ力で飛び出た状態となります。
B ドラムが何らかの原因で落下方向へ回転した場合は「パイロットピン」先端部が「ラッチ板」と当たり,下図のように「ソレノイド」全体が回転します。「つめ」を止めていた「かんぬき」が外れて,「つめ」がバネ力で押し上げられて「ラッチ板」に食い込むことで落下を防止します。
<落下の検出>  
 弊社のドラム式昇降装置の全てに「過速度検出装置」が装備されており,昇降速度の現在値の表示と速度が1.3倍以上に達した場合は制御回路を遮断する機構が備えてあります。通常であれば,回路が遮断された時点で昇降装置の2台のブレーキが作動し作業床の落下を停止させます。


 
            写真 8 過速度検出装置

<衝撃緩和機構>  
@ 「ラッチ板」とワイヤードラム取付ボルト部は長穴加工を行っており,ボルト締め付け力をバネ効果とし,衝撃が大きい場合にはラッチ板が滑るようになっています。弊社のテストでは吊り荷重が1200kgfを超えると滑りが発生しました。
 
写真 9 ラッチ板滑り
A 「ラッチ板」はSS400の9mm板材です。作動時のタイミングで「つめ」の掛かりが浅い場合は歯先がせん断し,次の歯で「つめ」が食い込むようになっています。
 
写真 10 歯先せん断
<制御装置>  
 ゴンドラ制御とのインターロックを行うために「非常ブレーキ盤」が設置してあり,センサー信号を制御しています。
 
写真 11 非常ブレーキ盤
<実機への装備>  
 
 
写真 12 非常ブレーキ装置

 


4.おわりに
     

 安全に使用できるゴンドラを提供することが我々メーカーの使命です。近年さまざまな形状の高層ビルが建設されゴンドラも多様な機能が付随してきております。今回紹介させていただいた各安全装置が実際の運用上で作動することはほとんど無いと思われますが,安全は全てに優先されるものであり,安全性を犠牲にすることは出来ません。
 今後もお客様に安心して使用していただけるゴンドラを製造することを目指してまいります。

 

(日本ゴンドラ(株) 設計部 中西英夫)


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